小学生の頃、私はかぎっ子のようなものだった。

 パパもママも仕事で、夜までおばあちゃんしか家にいない。

 そのおばあちゃんも、必ず家にいるとは限らなかった。

 でも私は鍵を持っていなかった。

 家の鍵を貸してもらうことは滅多になかった。

 その日、家に帰ると、全ての入り口に鍵がかかっていた。

 ランドセルを持っていたから、低学年のときだったと思う。

 こんなことがよくあった。

 普段は近くのママの方のおばあちゃん家で時間を潰すんだけど、その日の私はどうしても家に入りたかった。

 理由は憶えていない。

 そこで、家の周囲全てを見渡したら、トイレの窓が開いているのを発見した。

 小さな窓は、大人の身体では入れない。

 だから開けっ放しだったんだろうけど。

 私は近くにあった樽を台にして、窓から家に侵入した。

 窓は私の背よりはるかに高く、窓からトイレに降りるのも大変だった。

 洋式水洗トイレで本当によかった。

 居間のソファーに寝転んで、息をついた。

 心臓がバクバクと音を立てていたけど、なんだかひどくやり遂げた満足感があった。

 トイレの窓を見つける前、自分の部屋の窓ガラスを石で割ろうとして割れなかったのは今でも誰も知らない。





もどる